東京高等裁判所 平成11年(行ケ)341号 判決 2000年10月11日
原告
株式会社オオヤマフーズマシナリー
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁理士
【B】
同
【C】
被告
株式会社新井機械製作所
代表者代表取締役
【D】
訴訟代理人弁理士
【E】
主文
特許庁が平成10年審判第35394号事件について平成11年8月23日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、名称を「かき餅生地の製造装置」とする発明(以下、特許請求の範囲の請求項1、3及び4に係る発明を「本件発明」といい、その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。原告は、平成10年8月25日、本件特許につき、無効審判を請求し、特許庁は、同請求を平成10年審判第35394号事件として審理した結果、平成11年8月23日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年9月29日、原告に送達された。
2 本件発明の要旨
【請求項1】蒸練された米粉等を所定の断面形状に成形した長尺生地種の両側面を案内するガイド板を有して該生地種を長手方向にピッチ送りするピッチ駆動コンベア装置と、該ピッチ送りに同期して上下動することにより生地種の先端部上面を押さえる押し板を有し、さらに該押し板が上記生地種を押さえた際に該生地種先端部を所定の厚さに切断する、コンベア先端の下部に設けた下刃と上記生地種の送り方向と直角にクランク機構により往復移動する回転刃とを有する切断装置と、切断された未乾燥生地を自動搬送する、先端エッジ状ベルトコンベアを中間に設けたベルト式搬送コンベアと、自動搬送された未乾燥生地を自動乾燥させる金網式多段コンベア乾燥炉とからなることを特徴とするかき餅生地の製造装置。
【請求項3】上記押し板の長尺生地種への押さえ力を可変とし、且つガイド板の間隔を可変とした切断装置を有する請求項1又は2記載のかき餅生地の製造装置。
【請求項4】生地種切断方向に対する上記回転刃の取り付け設定角度を可変とした切断装置を有する請求項1、2又は3記載のかき餅生地の製造装置。
3 審決の理由
審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、(1) 原告が本件特許出願の前に上記請求項1に係る発明(以下「第1発明」という。)を公然実施していたとも、これが出願前公知又は周知であったとも認められず、(2) 本件発明は、当業者が、特公昭50-17555号公報、実願昭51-120717号(実開昭52-65195号)のマイクロフィルム、実公昭51-18397号公報、実公昭51-38152号公報、実公昭51-50879号公報及び実願昭47-67156号(実開昭49-23583号)のマイクロフィルムにより開示された事項をいかに組み合わせても、当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、(3) 特許請求の範囲の請求項3に係る発明(以下「第3発明」という。)及び同4に係る発明(以下「第4発明」という。)も同様であるというものである。
第3原告主張の審決取消事由
審決は、第1発明の構成である「ピッチ送りに同期して上下動することにより生地種の先端部上面を押さえる押し板」(以下「構成B」という。)が本件出願前公知又は周知であったかどうかについて認定を誤り(取消事由)、そのために第1発明の容易想到性の判断を誤ったものであり、第3、第4発明に関する判断も誤りであるから、取り消されるべきである。
1 実願昭47-67156号(実開昭49-23583号)のマイクロフィルム(以下、本件訴訟の書証番号に従い「甲第8号証」という。)によって、構成Bは、本件出願前公知であったと認められる。
すなわち、甲第8号証には、「前記押圧部13は連杆18に装着されたローラ39と、押圧杆40と、受け41と、この受け41を常に上方へ向わしめるバネ42と、受け41の下方に連結されるクッション部43とからなる。・・・。押圧杆40,40・・・が均一の圧力で受け41を押圧しクッション部43が麺帯を押さえた後、切断刃が麺帯を切断するように構成されている。」(明細書9頁14行目~10頁6行目)及び「押圧板の作用により麺帯を切断時確実に保持する」(明細書11頁17行目~18行目)と記載され、帯状麺帯を切断する際に帯状麺帯のピッチ送りに同期して上下動するクッション部43が記載されており、甲第8号証の第5図を参酌すれば、クッション部43は、構成Bの「押し板」に相当すると認めるべきものである。
2 特許第68220号(大正14年公告第7161号)明細書(甲第11号証)記載の発明は、「缺餅截断機」であって、長尺の餅生地を自動かつ連続的に切断する機械として発明されたものである。この発明は、ピッチ送りと押し板(甲第11号証記載の抑板)の上下動を同期させることを新規なものとしている。そして、実公昭28-11788号公報(甲第12号証)の記載から、甲第11号証記載の発明がそのまま引き継がれ、改良されていることが分かる。さらに、「株式会社大山鉄工所のカタログ、表紙、10頁、裏表紙」(甲第13号証)は、株式会社大山鉄工所(原告の旧商号)が昭和49年6月に印刷したもので、そのカタログNo.75に、甲第12号証記載の機械が記載されている。したがって、大正14年に発明された甲第11号証記載の缺餅截断機は実施され、改良されて(甲第12号証)、その実施機が販売されており(甲第13号証)、実際に、甲第11号証に示された缺餅截断機で昭和40年頃に製造販売したものが現に稼働中でもある(「【F】の撮影した写真」(甲第14号証))。
3 株式会社みながわ製菓の証明書(甲第3号証-1)記載のかき餅生地の製造機械がこの出願前に公然実施されていたことは、同証から明らかであって、この製造機械における、生地種のピッチ送りに同期して上下動する押し板は、第1発明の構成Bに当たる。
第4被告の反論
1 甲第8号証記載の発明は、扁平な長尺生地の切断長手方向に沿って長尺の定規様のクッション部で長尺生地の切断長手方向全長にわたって押さえ、この長尺定規様のクッション部に沿って生地を長尺方向に順次切断するもので、薄紙上に直線定規をあてがい、この直線定規に沿って薄紙を順次短冊状に切断する場合と同様である。これに対し、本件発明は、所定の断面形状に成形され長手方向両側面をガイド板で案内されている長尺生地種の生地ごとに、しかも同一生地でも長手方向の位置で高低差の出る可能性のある未乾燥易粘着体の先端部上面を押し板で押さえて、回転刃の往復移動の往路時及び復路時ともに生地種の長手方向の移動ぶれを阻止し、かつ長尺生地種の先端部を厚み精度を維持しながら所定の厚さに切断するものである。甲第8号証記載のクッション部は、本件発明の構成Bにおける「押し板」と目的も機能も全く異にするものである。
2 甲第11~第14号証は、特許庁の審判において提出されておらず、また、時機に後れて提出されたものであって、証拠として採用すべきではないし、これら甲号証に基づく原告の主張は理由がない。
すなわち、甲第11~第14号証の技術は、コンベアの全巾にわたって延在する広巾の製品を、同じくコンベアの全巾にわたる長さを有する長尺の「抑板」で全巾にわたって押さえ、この全巾にわたって存在する「抑板」を定規ないしはガイドとして全巾にわたって同時裁断するものである。この長尺の「抑板」は、本件発明のような、コンベア上で両側面をガイド板で案内させた長尺生地種を、その長尺方向に送る間欠運動時に、両側のガイド板間の狭い巾間隔内で長尺生地種の先端部上面を押さえる構成Bの「押し板」とは、構成上も、作用機能上も、全く無縁のものである。
3 甲第3号証-1のネガ番号3-7の写真には、左右のガイド板を並べたと思われるコンベアの先端部に下刃とこれに対応する上方の回転刃は見られるが、コンベア先端部上方は回転刃とその駆動機構で占められていて、押し板及びその駆動機構を取り付ける空間的余裕はない。
第5当裁判所の判断
1 甲第8号証には、以下の記載がある。
(1) 「以下に本考案帯状食料品生地の切断装置の一実施例について図面に基づいて説明する。
本考案帯状食料品生地の切断装置は切断台10と、切断部11と、駆動手段12と、押圧部13と、払い板14とからなる。
前記切断台10は帯状食料品生地を載置して移動させるもので、ゴム、ステンレスその他の無端ベルト15と、この無端ベルトを駆動する駆動ローラ16と、包丁受ローラ17と、切断台の前方に設けられて無端ベルトを架設する支持ローラ(図示せず)とから形成されている。」(明細書5頁17行目~6頁9行目)
(2) 「前記駆動手段12は支持杆18の上下の各1回の揺動により1ピッチ宛駆動ローラ16を移動させるもので、連杆28と、間欠送り機構29と、動力を駆動ローラに伝える伝達機構31とからなり、更に適宜送り補正機構30を含む。」
(明細書8頁5行目~9行目)
(3) 「前記押圧部13は支持杆18(注・連杆18は誤記と認める。)に装着されたローラ39と、押圧杆40と、受け41と、この受け41を常に上方へ向わしめるバネ42と、受け41の下方に連結されるクッション部43とからなる。支持杆18(前同)の上下の揺動によりローラ39も揺動されるが、このローラの揺動により押圧杆40、40・・・が下向きに揺動されるように押圧杆40、40・・・は軸44に固定されている。押圧杆40、40・・・が均一の圧力で受け41を押圧しクッション部43が麺帯を押さえた後、切断刃が麺帯を切断するように構成されている。」(明細書9頁14行目~10頁6行目)
2 これらの記載及び甲第8号証の第5図によれば、同号証には、(1) 帯状食料品生地が載置される無端ベルト15を駆動する駆動ローラ16を、支持杆18の上下の揺動により1ピッチ宛移動させ、帯状食料品生地をピッチ送りすること、(2) 支持杆18の上下の揺動によってローラ39を上下に揺動させ、ローラ39の下方への揺動により、押圧杆40、40を介して受け41を押圧し、受け41の下方に連結されるクッション部43を下方に押し下げ、帯状食料品生地の先端部上面を押さえること、(3) ローラ39の上方への揺動の際に、受け41を常に上方へ向かわせるバネ42により、受け41と共にクッション部43を上方に移動させ帯状食料品生地を押さえから解放すること、(4) クッション部43が長尺の長方形板状物であること、以上の事項が記載されているものと認められる。そうすると、甲第8号証には、帯状食料品生地すなわち生地種をピッチ送りすること、クッション部43を上下動することにより生地種の先端部上面を押さえること、前記ピッチ送りする作動と、クッション部43を上下動する作動とを、同じ支持杆18の上下の揺動運動と関連付け、この揺動運動により、前記2つの作動のタイミングを制御していること、以上の技術的事項が明らかである。
3 したがって、甲第8号証の「クッション部43」は、第1発明の構成である「押し板」に相当し、同号証には第1発明の「構成B」が記載されているものと認められるから、この構成が本件出願前公知又は周知であったとは認められないとした上、第1発明の容易想到性を否定した審決の認定判断は、誤りであり、第3、第4発明に関する判断も誤りといわざるを得ない。
4 被告は、甲第8号証記載の発明は、クッション部で長尺生地の切断長手方向全長にわたって押さえ、このクッション部に沿って生地を切断しようとするものであるのに対し、第1発明は長尺生地種の生地ごとに押さえて切断するもので、上記クッション部は、第1発明の押し板と目的も機能も全く異にすると主張する。しかしながら、第1発明における押し板が複数ある長尺生地種の生地ごとに押さえるよう構成されているとの主張は、本件発明の特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、採用することができない。
5 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 長沢幸男 裁判官 宮坂昌利)